A社(化粧品の製造メーカー)は、B社(原材料の販売業者)から、原材料を500万円で購入する売買契約を締結しました。契約締結後であっても契約を解除できますか。
自由に売買契約を解除できません。法律や契約で決められた解除理由が必要です。
1 売買契約の成立
本件では、B社がA社に対し原材料を販売し、A社がB社に代金を支払うことを内容とする「売買契約」が成立しています。
民法では、口頭でも売買契約が成立するとされていますが(これを法律用語で「諾成契約」といいます。)、実務的には、書面で契約の内容を確認するため、売買契約書を作成することがあります。売買契約書には、売買の基本的な条件が記載されています。
今回の相談事例では、すでにA社とB社との間では売買契約が締結されているため、B社はA社に対して原材料(目的物)を引き渡す義務(債務)を負い、また、A社はB社に対してその代金を支払う義務(債務)を負っています。
2 A社は自由に売買契約を解除できるか?
売買契約の解除が認められると、A社の代金支払債務やB社の目的物引渡債務がなくなります。ただ、契約当事者の信頼・利益を守る必要もあり、契約解除は自由にできるものではなく、契約の解除理由が民法(法定解除)や契約(約定解除)で定められています。
A社が契約解除できるかどうかを検討するためには、この法定解除や約定解除の要件を満たすかどうかを確認しなければなりません。
3 法定解除
法定解除には、ア)催告による解除とイ)無催告解除の2種類が民法で規定されています。
契約を解除するためには、原則として催告の上で解除する必要がありますが、無催告で解除することも一定の要件の下で認められています。
ア) 催告による解除の要件
催告による解除の場合、以下の①から④の要件を満たしている必要があります。
① 当事者の一方が債務を履行しないこと
② 相当の期間を定めて、その履行を催促すること
③ その期間内に履行がないこと
④ 債務不履行が契約及び取引上の社会通年に照らして軽微ではないこと
イ) 無催告解除の要件(全部解除の場合)
無催告解除の場合、以下の要件のうち、いずれかを満たしている必要があります。
① 債務全部の履行不能
② 債務者が債務全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存部分だけでは契約の目的を達成できないとき
④ 契約の性質等によって特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約の目的を達成できず、債務者が履行せずに、その時期を経過したとき
⑤ 債務者がその債務を履行せず、債権者がその履行の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき
4 約定解除
法定解除以外にも、契約の当事者間で解除理由を合意することができます。解除理由は、契約の性質や種類によって変わります。
<売買契約書に記載する解除理由の例>
(1)営業の許可取消し又は停止等があったとき
(2)支払停止若しくは支払不能、又は手形不渡りとなったとき
(3)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始があったとき
(4)差押、仮差押、仮処分、強制執行又は競売の申立てがあったとき
(5)租税公課の滞納処分を受けたとき
(6)金融機関から取引停止の処分を受けたとき
(7)財産状態が悪化し又は悪化するおそれがあると認められる相当の事由があるとき
(8)解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をしたとき
5 解除の注意事項
① 債務が履行できない理由が債権者に責任があるとき、解除できない場合があります。
② 契約を解除するとき、相手方に対して解除を通知する必要があります。
③ 債務不履行で契約を解除するとき、損害賠償を請求できることがあります。
6 ポイント
1.売買契約の締結後、自由に売買契約を解除することはできない。
2.契約解除の要件は、法律(法定解除)や契約(約定解除)によって規定されている。
3.契約解除するときは、相手方に通知しなければならない。
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弁護士法人かける法律事務所(”KLPC”)では、「契約書や規約の作成」や「顧問契約」サービスを提供しており、法務的な視点から、約定解除理由が適切に記載されているのか、また、極端に不利益な解除理由が記載されていないかをチェックし、アドバイスします。
また、「紛争・訴訟」対応サービスでは、解除通知書の作成・送付や解除に伴うトラブル・紛争(損害賠償請求を含む。)にも対応しています。
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