法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>海賊版サイトとインターネット広告事業者の責任について、裁判例から弁護士が解説します。

2022.07.15

海賊版サイトにインターネット広告事業者が広告料を支払ったときに責任が発生することがありますか?

昨今、インターネット上の海賊版対策が強化されており、著作権侵害の関与者も責任を負うことがあります。

1 インターネット上の海賊版対策の強化の動向

 インターネットの普及に伴い、漫画・雑誌等の海賊版被害が深刻になっていると指摘されており、令和2(2020)年著作権法改正ではインターネット上の海賊版対策の強化が行われました。また、関係省庁で公表されたインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューでも、海賊版による被害を効果的に防ぎ、著作権者等の正当な利益を確保するため、「海賊版サイトへの広告出稿の抑制」対策が掲げられ、「権利者等と広告関係団体の合同会議を通じた海賊版サイトリストの共有、広告関係団体の自主的ガイドライン策定・普及の推進」が目標とされています。

 これは、海賊版サイトにインターネット広告が掲載され、その広告費収入が海賊版サイト運営の資金源になっているのではないかという問題意識があります。

 

2 著作権侵害とインターネット広告事業者の責任

 著作権侵害の責任を負うのは、まず著作権の侵害行為(複製、公衆送信等)を直接行っている者(直接行為者)です。この直接行為者が著作権者との関係では損害賠償請求や差止請求に対する責任を負います。

 もっとも、従来から、直接行為者以外の関与者(間接行為者)、例えば、著作権侵害を容易又は促進する装置やソフトを開発・販売する者も、著作権侵害の責任を負うのかどうかが従来から議論され、一定の範囲で認められていました。

 それでは、あるインターネットサイトが著作権侵害を行っている場合、そのサイト運営者に広告料を支払うインターネット広告事業者も、その責任を負うことがあるのかどうか?

 この論点について、東京地判令和3(2021)年12月21日(令和3年(ワ)第1333号)【「漫画村」インターネット広告事件】で、その判断が示され、社会的にも注目を集めました。

 

3 東京地判令和3(2021)年12月21日(令和3年(ワ)第1333号)【「漫画村」インターネット広告事件】の内容

 本判決は、「漫画村-無料コミック漫画-」(以下「本ウェブサイト」)の広告取扱窓口(メディアレップ)に、広告配信サービス(アドネットワーク)を介して、広告料を支払うインターネット広告事業者の責任が問題となりました。

 本ウェブサイトは、「史上最悪の海賊版サイト」とも指摘され、その運営者とされる者は、懲役3年(実刑)及び罰金1000万円とともに、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に基づき6257万1336円の追徴を命じる判決が下され、確定しています(福岡地判令和3年6月2日)。

 本判決では、本ウェブサイトの運営資金のほとんどが、広告事業主から支払われる広告料によって賄われる仕組みとなっており、その広告料がほとんど唯一の資金源であったと認定し、平成29年5月時点において、海賊版サイトに対する広告料が資金源となっている運用が社会問題として認識され、その対策の必要性が広告業界でも認識されていたことを根拠に、「本件ウェブサイトの運営者が、そこに掲載する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で、本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていた」とし、インターネット広告事業者に対して損害賠償責任を認めました。

 

4 本判決の意義

 広告配信サービス(アドネットワーク)では、広告掲載先のサイト(メディア)が極めて多数で、そのサイト(メディア)のコンテンツに関し、著作権者から利用許諾を得ているかどうかを個別に調査することは、多大な費用や労力を要し、実際には困難な事情も推測できます。

 もっとも、本判決は、海賊版サイトに対して広告料が支払われていたケースにおいて、一定の要件の下で、インターネット広告事業者にも責任を認めており、インターネット広告の実務にも影響を与える可能性があります。

 

5 ポイント

1.インターネット上の海賊版対策の強化が行われており、今後は、更に厳格な運用となる可能性がある。

2.著作権侵害の責任を負う者は、原則として、直接、侵害行為を行うものですが、その関与者も責任を負うことがある。

3.インターネット広告事業者も海賊版サイトに広告料を支払う場合、責任を負うことを認める判決(東京地判令和3(2021)年12月21日)が出されている。

 

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