法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>プロパイダ責任制限法の改正が2022年10月1日から施行されました!

2022.11.20

ツイッターで全く知らない人から、ひどい誹謗中傷を受けました。ツイートした人を特定したいのですが、どのような法的な手続がありますか?

その投稿が名誉棄損やプライバシー侵害に当たるのであれば、裁判外の手続や裁判上の手続によって発信者の情報を特定することが可能です。また、今般のプロバイダ責任制限法の改正(2022年10月1日施行)によって、以前よりも迅速に発信者情報に特定する制度が設けられました。

1. プロパイダ責任制限法とは?

 プロパイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)とは、ネット社会の普及によって拡大しているインターネット上の誹謗中傷への対策として、2001年に制定された法律です。

 プロパイダ責任制限法が定める内容は、大きく2つあります。一つは、プロパイダ側の損害賠償責任の制限、もう一つは、発信者情報開示請求の手続についてです。

 今般、発信者情報開示請求の手続について重要な法改正がなされ、その改正内容は、大きくいうと、①ログイン型に関する開示手続及び要件の整備と、②新たな発信者情報開示の裁判手続の創設となります。

2. ログイン型に関する改正内容について

ログイン型とは?

 ログイン型とは、インターネット上で何か投稿をする際に、IDやパスワード等でログインをしてからでないと投稿できないサービスのことであり、代表的なものとして、ツイッターやフェイスブック等がこれに当たります。

インターネット上で違法な投稿がされた場合の基本的な発信者情報開示手続の流れ

 まず、インターネット上で違法な投稿がなされた場合に、その発信者を特定するための基本的な流れについて説明をしておきたいと思います。

 違法な投稿がされたサイトや媒体にもよりますが、一般的には、まず、その違法な投稿がされた際の通信記録(IPアドレス等)を取得します。例えば、5ちゃんねる等のネット掲示板であれば、一つ一つの投稿ごとに個別の通信記録が付与されるので、違法な投稿がされた際の通信記録の開示を、掲示板の管理者に請求します。これは、任意に開示される場合もあれば、裁判によって開示を受けることもあります。

 そして、通信記録が開示されれば、その通信記録から違法な投稿がどの通信業者の回線からされたかを割り出し、その通信業者に対して、違法な投稿がされた回線の情報(回線の契約者の氏名・住所等)の開示を受け、発信者が特定される、ということになります。

 このように、まさに違法な投稿がされた際の通信記録やその通信回線から割り出される住所氏名等の情報については、改正前のプロパイダ責任制限法において、問題なく開示対象の発信者情報となっていました。

ログイン型の場合はどうだったか?

 他方で、ログイン型SNSで違法な投稿がされた場合、法律の解釈上の問題がありました。すなわち、ログイン型SNSの場合、ログイン時には通信記録が残るものの、ログイン中に違法な投稿がされた時には、基本的に通信記録が残らないようになっています。そうすると、ログイン型SNSの管理者から通信記録として開示されるのは、ログイン時の通信記録だけということになります。

 しかし、ログイン時と投稿時では必然的に時間的なズレが生じます。そのため、ログインをした人物と投稿をした人物というのは、必ずしも同一人物ではない可能性があります。例えば、ツイッターのアカウント主がパソコンでログインをしてそのまま放置していたところ、遊びに来ていた友人がログイン状態を利用して違法な投稿をした、という場面を考えてみてください。

 このようなこともあり、ログイン型SNSにおけるログイン時の通信記録やそこから割り出される住所氏名を、発信者情報の開示対象としていいのかという問題がありました。

 改正前のプロパイダ責任制限法でも、開示対象は「当該権利の侵害に係る発信者情報」と規定されていたため、これを素直に読めば、まさに違法な投稿がされた時の通信記録しか開示対象にならないという議論もありました。

 もっとも、それでは違法な投稿をされた被害者が十分に保護されないということで、上記文言を柔軟に解釈し、ログイン時の通信記録等も開示対象にするという判断をする裁判例もありました。

今般の改正により、ログイン時の通信記録も開示対象になることが明文化された

 このように、改正前のプロパイダ責任制限法では、ログイン型SNSにおけるログイン時の通信記録等が開示対象になるか、解釈上の争いがありました。

 今般の改正では、その点を明文化し、このようなログイン時の通信記録等についても、一定の要件の下で開示対象とすることが明文化されました。

 具体的には、開示対象となる発信者情報を、①「特定発信者情報」(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの)と、②それ以外の発信者情報に区別し、ログイン時の通信記録については、「特定発信者情報」として、一定の要件の下で開示対象となることになりました。

 今般の法改正により、従来は開示対象とするか解釈が分かれていたログイン時の通信記録等についても、開示が認められやすくなったといえます。

3. 新たに設けられた発信者情報開示請求の裁判手続について

従来の運用について

 さきほどと同様、SNSで全く知らない人からひどい誹謗中傷を受けたので、発信者情報の開示請求をしたいという場面を考えてみます。

 さきほども述べましたが、従来の法整備の下では、まず、SNSの管理者から、違法な投稿がされた際の通信記録を取得する必要がありました。また、SNSの管理者が任意に情報の開示をしてくれる場合もありますが、任意に開示をしてもらえない場合もあり、その場合、裁判手続を経て、通信記録の開示を受ける必要がありました。

 また、その裁判手続は、通常、弁護士に依頼することが多く、開示までに数か月ほどかかることもあります。

そして、この通信記録の開示を受けることができれば、その投稿がどの通信事業者の回線からされたものかが絞りこまれ、その通信事業者に対して、投稿時のIPアドレスを割り当てられていた契約者の情報(名前や住所等)を開示してもらうように請求します。ただし、これも任意に開示をしてもらえるとは限らず、任意に開示してもらえない場合には、通信事業者に対して新たに裁判手続をする必要があります。

 このように、従来の運用では、発信者情報にたどり着くまでに、2回の裁判手続を経なければならない場合があり、その分、弁護士費用や手間がかかりすぎるという問題が指摘されていました。

今般の改正により、簡略化された手続が新たに創設された

 この問題を解決するために、改正後のプロパイダ責任制限法では、従来の2つの裁判手続が一体になった、新たな裁判手続が設けられました。

 この新たな手続では、

  1. まず、違法な投稿がされたサイトの管理者(SNS事業者等)に対する「発信者情報開示命令」を裁判所に申し立てます。この際、サイトの管理者に対して、違法な投稿がどの通信事業者の回線からされたかという情報を申立人に提供するように求める命令(「提供命令」)も同時に申し立てることができます。
  2. この「提供命令」が決定された場合、申立人に、その通信事業者の情報が提供されます。これにより、従来のようにIPアドレス等の情報から辿ることなく、通信事業者の情報を直接得ることができます。
  3. その後、申立人が、開示された通信事業者に対して「発信者情報開示命令」を申し立てます。この際、発信者の情報(住所氏名等)の削除を禁止する命令(「消去禁止命令」)も合わせて申し立てることができます。これによって、発信者情報が消されないようにした状態で発信者情報開示の手続を進めることができます。
  4. その後、申立人が、SNS事業者等に対して、通信事業者に対する発信者情報開示命令を申し立てたことを通知すると、SNS事業者等から通信事業者に対して、保有する発信者情報の提供がなされ、それにより、通信事業者から申立人に発信者情報が開示されます。

 このような一体的な裁判手続が設けられたことにより、費用や手間といったコストがかかりすぎるという従来の問題点が解消されることが期待されます。

4. ポイント

  1. プロパイダ責任制限法が改正され、2022年10月1日から新たな運用が始まりました。
  2. ログイン型について、ログイン時の通信記録等も開示対象となることが明文化されました。
  3. 発信者情報の開示のためのより迅速な裁判手続が新たに設けられました。

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