法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>VTuber(キャラクター)への誹謗中傷について、弁護士が解説します。

2023.03.30

私は、VTuber(ブイチューバー)として、主にYouTubeでライブ配信をしています。最近、インターネットの掲示板で、私のスレッドが立ち上がり、そこで、私が反社会的な人物であるといったような誹謗中傷を受けています。誹謗中傷をした人を特定して責任を追及したいのですが、可能でしょうか?

特定して責任追及できる可能性はあります。

1. VTuberへの誹謗中傷における問題点

 インターネット上で誹謗中傷をされた人(対象者)が、自己の社会的名誉や名誉感情を侵害されたとして、投稿者の特定を求めたり、投稿者に対して法的責任(民事・刑事)を追及する場合、その投稿が、対象者本人の名誉を侵害しているといえる必要があります。

 もっとも、VTuberは、一般に、自分の本名や容姿を公開せず、アバターという架空のCGキャラクターとなって活動を行うため、キャラクターの中の人(本人)とは別個の人格として活動をしている側面があります。

 そのため、VTuberに対する誹謗中傷がなされた場合、中の人(本人)自身に対する誹謗中傷がなされたとみなすことができるのか、それとも、あくまでキャラクターとしての架空の人格に対して誹謗中傷がなされたのか問題となります。

 インターネット上の仮想人格に対する攻撃によって名誉棄損が成立するのかという点に関しては、従来から議論があります。

 つまり、インターネット上の仮想人格に対する攻撃であっても、その仮想人格を利用して活動する上で本人にとって不利益がもたらされる以上、本人に対する名誉棄損を認めるべきであるという見解や、逆に、誹謗中傷を行った行為者に対する法的責任の追及を肯定してまで、仮想人格に対して手厚い保護をする必要はないといった見解もあります。裁判例でも判断が分かれる部分になっています。

2. 裁判例はどのように判断しているか

 裁判例の考え方は、まだ確立されたとはいえない状況ですが、最近の注目すべき裁判例として、VTuberに対してネット掲示板で誹謗中傷がなされた事案において発信者情報の開示を認めた裁判例(東京地判令和3年4月26日)があります。以下では、東京地判令和3年4月26日の内容を紹介します。

(1)事件の概要

 多数のVTuberが所属する芸能プロダクションに所属してVTuberとして活動をしていた原告が、インターネット上の掲示板(5ちゃんねる)上で、飲食店で食事を残したことについて、その人自身の生育環境と結び付けた形で批判する投稿されました。

 そのため、原告が、投稿時のIPアドレスを保有していたプロパイダに対し、投稿者の発信者情報の開示を求めた事案です。

 この事案では、請求を受けたプロパイダ側が、VTuberというキャラクターに対する誹謗中傷は、生身の人間を対象としたものではなく、そのキャラクターに対する名誉棄損はあるとしても、中の人物(原告)に対する名誉棄損にはならないという主張をしました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、結論として、上記誹謗中傷が中の人自身に対する名誉棄損であるとして、原告の請求を認めました。その判断の理由を要約すると、以下の通りとなります。

①VTuberとしての活動が単なるCGキャラクターではなく,原告の人格を反映したものといえること

 裁判所は、以下の事情を総合的に考慮し、原告のVtuberとしての活動は、単なるCGキャラクターではなく、原告の人格を反映したものであると判断しました。

  • 原告がキャラクターとして使用していた名前で活動しているのは、原告が所属する芸能プロダクションの中で原告のみであること
  • 上記プロダクションがVTuberのキャラクターを製作する際には、当該キャラクターとして活動する予定のタレントとの間で協議を行った上で、タレントの個性を活かすキャラクターを製作していること
  • 原告の動画配信における音声は原告の肉声であり、CGキャラクターの動きについてもモーションキャプチャーによる原告の動きを反映したものであること
  • 原告による動画配信やSNS上での発信は,キャラクターとしての設定を踏まえた架空の内容ではなく、実際の原告の現実の生活における出来事等を内容とするものであること

②問題となった投稿がいずれも原告自身の行動を批判するものであったこと

 本件で問題となった投稿は,いずれも、原告がインターネット上で配信した際の、原告が飲食店で提供された食事を食べきれずに残したというエピソードについての批判であり、原告自身の行動を批判するものであるといえるものでした。

 これらのことから、裁判所は、問題となった投稿が、VTuberという仮想人格を超えて原告自身のことについて述べたものであることを前提にし,その上で、飲食店で食事を残したエピソードについて、原告自身の生育環境と結び付けて批判したことを、原告に対する名誉感情の侵害であると認めて、発信者情報の開示を認める判決を下しました。

(3)裁判例に対する検討

 この裁判例はまだ一例にすぎませんが、VTuberは、それ自体が一つの職業として成り立ちうるほどに社会的地位が確立されてきている部分もあります。

 そのため、誹謗中傷による生活へのダメージは、とても大きいものになりえます。その意味でも、上記裁判例が示した判断は、VTuberに対する誹謗中傷をめぐる法的問題を考えるうえで、大きな意味のある判断であるといえるのではないでしょうか。

3. ポイント

  1. VTuberやキャラクターを中心とする仮想人格に対する誹謗中傷において、本人(中の人)とは別の社会的人格を観念することができ、本人に対する名誉棄損が成立するかどうかという点が問題となっています。
  2. 具体的な事案では、VTuberとしての活動内容やキャラクターの設定が本人の人格を反映したものか、誹謗中傷の内容が本人の活動に対してのものであるのかが考慮要素となります。
  3. 実際に、インターネット上の掲示板におけるVTuberへの誹謗中傷について、本人(中の人)に対する名誉感情を侵害するとして、発信者情報開示を認めた裁判例が存在します。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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