法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>一般住宅は著作物といえるか??~高級注文住宅用モデルハウス事件(大阪高判平成16年9月29日)を弁護士が解説~

2023.05.22

1. 一般住宅も著作物といえるか??

 一般住宅が「建物の著作物」にあたるとすると、新たに行う住宅建築が著作権侵害といわれる可能性があります。ただ、一般住宅は居住の用に供される実用的なものであり、特定の人に独占させると、社会的な影響も大きいため、一般住宅が著作物に該当するかどうかは慎重に検討しなければなりません。

 高級注文住宅用モデルハウス事件(大阪高判平成16年9月29日、以下「本判決」といいます。)では、被告建物の建築、販売及び展示が、原告建物に関する原告の著作権を侵害するかどうかが問題となりました。具体的には、原告建物が「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当するかが問題となっています。

2. 事案の概要

 本件は、原告が被告に対し、原告建物が「建築の著作物(著作権法10条1項5号)」に該当し、原告建物の著作権者であると主張し、被告建物が原告建物を複製又は翻案したものであるとして、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告建物の建築等の差止め及び被告建物の玄関側写真の掲載されたパンフレットの廃棄を請求するとともに、民法709条(著作権侵害による不法行為)に基づき損害賠償を請求した事案です。

3. 原審(大阪地判平成15年10月30日)の判旨ー著作物性を否定

 「著作権法により『建築の著作物』として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、美的な表現における創作性を有するものであることを要することは 当然である。したがって、通常のありふれた建築物は、著作権法で保護される『建築の著作物』には当たらないというべきである。一般住宅の場合でも、その全体構成や屋根、柱、壁、 窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性のみならず、美的要素も加味 された上で、設計、建築されるのが通常であるが、一般住宅の建築において通常加味される 程度の美的創作性が認められる場合に、その程度のいかんを問わず、『建築の著作物』性を 肯定して著作権法による保護を与えることは、同法2条1項1号の規定に照らして、広きに失 し、社会一般における住宅建築の実情にもそぐわないと考えられる。一般住宅が同法10条1 項5号の『建築の著作物』であるということができるのは、一般人をして、一般住宅におい て通常加味される程度の美的要素を超えて、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的 精神性を感得せしめるような芸術性ないし美術性を備えた場合、すなわち、いわゆる建築芸 術といい得るような創作性を備えた場合であると解するのが相当である。」とした上で、「原告建物は、前記認定によれば、通常の一般住宅が備える美的要素を超える美的な創作性 を有し、建築芸術といえるような美術性、芸術性を有するとはいえないから、著作権法上の 『建築の著作物』に該当するということはできない。」としました。

4. 本判決(大阪高判平成16年9月29日)の判旨ー著作物性を否定

 「現代において、和風の一般住宅を建築する場合、上記のような種々の要素が、設計・建築途上での試行錯誤を経て、配置、構成されるであろうことは、容易に想像される。本件のように、高級注文住宅とはいえ、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって顧客を吸引し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合は、一般の注文建築よりも、工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高くなり、当該モデルハウスの建築物の建築において通常なされる程度の美的創作が施されたとしても、『建築の著作物』に該当することにはならないものといわざるを得ない。これに対し、まれに、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備していると認められる場合は、『建築の著作物』性が肯定されることになる。」とした上で、「原告建物は、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回っておらず、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備しているとはいえないから、著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない。」としました。

5. 本判決のポイント

 本判決は、一般住宅に関し、「工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高く」なることを考慮し、「まれに、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備していると認められる場合」に限定して、「建築の著作物」に該当すると厳格に判断しました。

6. 実務における注意点

 「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当するか、また、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に該当するかは、著作物を創作した者の利益と公正な利用を考慮しながら、ケースバイケースで判断されます。特に、著作物に該当するかどうかは、過去の裁判例を踏まえた専門的な判断となります。

 その判断に悩んだときは、弁護士等の専門家に相談する必要があります。

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