法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>社内イントラネットの利用で注意すべきことはありますか?著作権法の観点から弁護士が解説します。

2023.07.10

当社では、従業員の研鑽や情報共有のため、新聞記事や雑誌記事の画像データを作成し、社内イントラネットの掲示板に掲載しています。この取り組みが著作権侵害といわれることはありますか?

社内イントラネットであるとしても、著作権侵害といわれる可能性があります。裁判例でも、新聞記事を社内イントラネットで掲載した行為について、著作権侵害が認められ、約192万円の損害賠償請求が認められた事案があります。

1. 社内イントラネットにおいて第三者の著作物を利用する場合の注意点

 新聞記事や雑誌記事について、会社内で情報共有するため、社内イントラネットを利用する企業もあるかもしれません。もっとも、社内イントラネットであったとしても、第三者の著作物(新聞記事や雑誌記事)のデータを複製し、社内イントラネットに接続して、閲覧できるようにすることは、著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害になり得ます。

 このことを知らないまま、安易に社内イントラネットに第三者の著作物を複製し、閲覧できることを常態化すると、著作権トラブルに巻き込まれてしまうリスクがあります。

 コンプライアンス経営が求められる中で、社内イントラネットの利用方法と著作権法について、実際に起きた裁判例を紹介しながら、説明します。

2. 社保庁LANシステム事件ー東京地判平成20年2月26日[平成19年(ワ)15231号]

(1)事案の概要

 本件は、被告の機関である社会保険庁の職員が、ジャーナリストである原告の著作物である雑誌記事を、社会保険庁LANシステム中の電子掲示板システムの中にある新聞報道等掲示板にそのまま掲載し、原告の複製権又は公衆送信権を侵害したとして、原告が、被告に対し、著作権侵害を理由として、①掲載記事の削除、②予防的差止め、③損害賠償の支払を求めた事案です。

 本判決は、掲載記事について、すでに削除されていたことから、①掲載記事の削除を認めなかったものの、②予防的差止めや③損害賠償(約42万円)の支払を認めました。

(2)判旨ー著作権侵害を肯定

 「本件LANシステムは、社会保険庁内部部局、施設等機関、地方社会保険事務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステムであり(前提となる事実)、その一つの部分の設置の場所が、他の部分の設置の場所と同一の構内に限定されていない電気通信設備に該当する。したがって、社会保険庁職員が、平成19年3月19日から同年4月16日の間に、社会保険庁職員が利用する電気通信回線に接続している本件LANシステムの本件掲示板用の記録媒体に、本件著作物1ないし4を順次記録した行為(本件記録行為)は、本件著作物を、公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことを可能化したもので、原告が専有する本件著作物の公衆送信(自動公衆送信の場合における送信可能化を含む。)を行う権利を侵害するものである。」

 「社会保険庁職員による本件著作物の複製は、本件著作物を、本件掲示板用の記録媒体に記録する行為であり、本件著作物の自動公衆送信を可能化する行為にほかならない。そして、42条1項は、「著作物は・・・行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。」と規定しているとおり、特定の場合に、著作物の複製行為が複製権侵害とならないことを認めた規定であり、この規定が公衆送信(自動公衆送信の場合の送信可能化を含む。)を行う権利の侵害行為について適用されないことは明らかである。また、42条1項は、行政目的の内部資料として必要な限度において、複製行為を制限的に許容したのであるから、本件LANシステムに本件著作物を記録し、社会保険庁の内部部局におかれる課、社会保険庁大学校及び社会保険庁業務センター並びに地方社会保険事務局及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については、実質的にみても、42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである。」

3. 『社内イントラネット』新聞記事掲載事件ー東京地判令和4年10月6日(令和2年(ワ)3931号)

(1)事案の概要

 本件は、原告(新聞会社)が、被告(鉄道会社)に対し、原告が発行する新聞記事を被告がスキャンして画像データを作成し、それを社内イントラネット用の記録媒体に保存し、被告従業員が同イントラネットに接続して同画像データを閲覧できるようにした行為について、原告の複製権及び公衆送信権を侵害したことを理由に、民法709条又は民法715条に基づき、損害賠償等を請求する事案です。

 本判決では、新聞記事の著作物性を肯定するとともに、社内イントラネットに掲載された記事数や内容について直接裏付ける証拠がない期間についても著作権侵害を肯定し、記事1本につき3000円の損害が生じることを認め、合計約192万円の損害賠償請求を認めました。

(2)新聞記事の著作物性を肯定

 「平成30年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。

 そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。

 また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、平成30年度掲載記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。」

 「平成30年度掲載記事133本はいずれも著作物であると認められ」、「被告がこれらの記事を切り抜くなどした上で、その画像データを作成し、本件イントラネットによる送信用の記録媒体に記録して本件イントラネットに掲載したことは、本件イントラネットが接続されてこれを閲覧できた者等に照らせば、これらの記事に対して有する原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認められる。」

(3)損害の発生を肯定

 「原告においては、少なくも平成20年以降は、本件個別規定を適用して原告が発行する新聞の記事について利用許諾を検討する体制を整えており、これらの規定を複数年にわたり、少なくとも1000件程度適用し、これに基づく使用料を徴収してきた実績があることが認められる。また、本件個別規定には、社内LAN(イントラネット)での利用を想定した文言がある。

  他方、本件で問題になっているイントラネットでの掲載に関して本件個別規定に基づき支払われた利用料の額等の実績については不明であり、また、本件個別規定には件数が多い場合の割引に関する規定もあり、件数が相当に多い場合、どの程度本件個別規定の本文で定める額が現実に適用されていたかが必ずしも明らかではない。

  さらに、本件イントラネットによる新聞記事の掲載は、被告の業務に関連する最新の時事情報を従業員等に周知することを目的とするものであったことからすると、掲載から短期間で当該記事にアクセスする者は事実上いなくなると認められる。

  これらの事実に加え、本件に係る被告による侵害態様等を総合的に考慮すると、本件については、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、掲載された原告の記事1本について掲載期間にかかわらず3000円として、原告に同額の損害が生じたものと認めるのが相当である。」

 「平成30年度以前については、遅くとも平成30年3月31日までに、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当であるから、これによる損害は137万4000円となる。」

  平成30年度掲載記事133本に関し、損害合計額について、「39万9000円になる。」ことを認めた。

4. 社内イントラネットの利用上の注意点

  1. 社内イントラネットの利用であっても、第三者の著作物を複製し、閲覧できるような状態にすることは著作権侵害となり得る。
  2. 著作権侵害を理由に実際に民事裁判となった事案もあり、安易な判断は著作権トラブルに巻き込まれるリスクとなる。
  3. 社内イントラネットの利用ルールについて、著作権法の観点から検討する必要がある。

5. 弁護士法人かける法律事務所が対応できること

 弁護士法人かける法律事務所には、著作権問題に対応できる弁護士が在籍しています。著作権侵害で警告や訴訟提起を受けたら、まずは、ご相談してください。お問い合わせは、こちらです。

弁護士に依頼できること

  1. 著作権を侵害しているかどうか知りたい。
  2. 損害賠償の減額交渉できるかどうか知りたい。
  3. 解決金を支払いたいが、しっかりと和解契約書(示談書)を作成したい。
  4. 著作権トラブルについて民事訴訟が提起され、訴状が届いた。
  5. 話し合いがまとまらず、民事訴訟に発展するかもしれない。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務や著作権に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。