私は、飲食業の経営者です。数年前から、より多くのお客様にお店のことを知ってもらうために、有名なインフルエンサーに広告依頼料を払って、お店をPRする動画をSNSで公開してもらっています。これはステマ規制に違反する行為となるのでしょうか?
広告表示によって、飲食店の広告であることが明瞭になっているのであれば、ステマ規制に違反した行為にはなりません。
一方で、広告表示をしていない、あるいは、一応広告表示をしているが表示がわかりづらい場合、広告表示を追加したり、一目で広告であることが分かるように、動画を修正してもらう必要があります。これらの措置を何ら行わずに、そのままの状態で動画を公開したままにすると、ステマ規制に違反するおそれがあります。
1. ステマ規制の概要
ステマ規制とは、ステルスマーケティング、すなわち、商品・サービスを製造、販売している事業者が関与して行っている表示(広告)について、当該事業者以外の第三者(消費者、インフルエンサー等)による表示であるかのように装って広告・宣伝を行うマーケティング手法を規制するものです。
一般的に、消費者は、商品・サービスについてのある表示が事業者による広告であると分かれば、ある程度誇張や誇大が含まれているものと認識した上で、商品・サービスを選択します。
この点、ステルスマーケティングは、商品・サービスについての表示が、実際には事業者による広告であるにもかかわらず、それが、消費者やインフルエンサーといった第三者による感想であると誤認させうるものであるため、商品・サービスについての表示を、一般消費者がそのまま受け取ってしまう可能性があります。
このように、ステルスマーケティングは、商品・サービスの選択について、一般消費者の自主的・合理的な判断を妨げるものであるということから、新たに規制(ステマ規制)がなされることになりました。
2. ステマ規制の根拠法令
ステマ規制は、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)に基づく規制です。
景品表示法では、事業者において禁止される不当表示の一つとして、一般消費者に誤認を生じさせるおそれのあるものとして内閣総理大臣が指定するものが挙げられています(同法5条3号)。
ステルスマーケティングでも、内閣総理大臣による指定の告示がなされ、同告示が2023年10月1日から施行されました。ステルスマーケティングは、景品表示法上の不当表示として禁止される行為となります。
3. ステマ規制の具体的内容について
以下の内容は、消費者庁のホームページ及び告示ガイドブックに準拠して記載したものとなっています。
※消費者庁の告示ガイドブック(景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック~)
( 1 ) 規制の対象範囲について
①適用対象者
ステマ規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)であり、企業から依頼を受けて広告・宣伝の制作や表示(掲載、投稿)を行った第三者(広告代理店、インフルエンサー等)は、規制の対象にはなりません。
②適用時点
今回のステマ規制は、あくまで、規制の施行後のステマ行為が規制対象となっており、規制の施行前に行われたステマ行為が、直接、規制対象となるわけではありません。
ただし、規制の施行前に行われたステマ行為が、施行後もそのまま継続している場合には、施行後もステマ行為が行われていることになるため、その部分については、規制の対象となりえます。
例えば、規制の施行前から、インフルエンサーに依頼をしてお店のPR動画を公開してもらっていたところ(ステマ行為)、規制の施行後も、その動画を公開しているインフルエンサーに何ら連絡をせずに、そのまま公開し続けたという場合、規制の施行後にステマ行為が行われていると判断される可能性があり、規制の対象になりえます。
この点については、パブリックコメントに対する回答においても、指摘がされています。
※パブリックコメントに対する回答内容
(このうち、No194、No196が上記の点に関連する内容になっています。)
「一般的に、立法によるにせよ、告示によるにせよ、新たな法規 制は、施行日後に生じた事実に適用されるものであり、施行日前 に遡及することはありません。 アフィリエイト広告等、事業者が施行日前に第三者に行わせた 表示であっても、その後、表示の作成者である第三者と連絡がつ かず、事業者が表示を管理できない状態にあるなど施行日後にお いて事業者の表示と判断される実態を欠いている場合には、本告 示の対象となることはありません。 しかし、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であって も、施行日後も、当該表示の作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にあるなど施行日後において事業者の表示 であると判断される実態にある場合は、施行日後の表示が本告示 の対象となる可能性があります。」
( 2 ) 違法なステマ行為に当たるか否かの判断基準について
内閣府の告示においては、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」が、ステルスマーケティングに当たり、違法な不正表示として禁止されるとされています。
そのため、ある表示が違法なステマ行為に当たる要件は、以下のとおりとなります。
ア. 事業者の表示であること
(事業者が自社の商品・サービス等について行う表示であること)
事業者が自ら表示(広告)を行う場合は当然該当しますが、事業者が第三者に表示を行わせる場合でも、事業者がその表示内容の決定に関与したと認められる場合には、これに該当します。
具体的としては、事業者の販売担当者が、自社の商品の販売促進のために、Amazon等の販売サイトで自社商品の優良性について投稿する行為(事業者自身が表示をする場合)、事業者がインフルエンサーに商品のPR内容を伝えた上で、インフルエンサーにその内容に沿ったPR動画を投稿してもらう行為(事業者が第三者に表示を行わせる場合)等が、これに該当します。
イ. 一般消費者が事業者による表示であることを分からないこと
一般消費者からみて、表示の内容全体から、事業者が行う表示であることが明瞭に判別できるものとはなっていない場合、これに該当します。
事業者が行う表示であると明瞭に判別できるかどうかは、表示上の特定の文章、図表、写真などから一般消費者が受ける印象・認識ではなく、表示内容全体から受ける一般消費者の印象・認識を基準に判断されることになります。
例えば、①「広告」という表示自体はあるが、広告表示の場所が分かりづらい、②広告表示の文字が小さかったり識別しづらい色を使っている、③動画中で「広告」と表示されている時間がごくわずかである、④「広告」という表示と「第三者の感想」という表示が混在している等の場合、事業者による表示であることが明瞭とはいえないと判断される可能性があります。
4. ステマ規制に違反した場合のリスク
商品・サービスを供給する事業主がステマ規制に違反した場合、消費者庁は、当該事業主に対し、必要な指導及び助言、管理上の措置を講ずる旨の勧告といった措置を命ずることができ、また、事業主が勧告に従わない場合には、その旨の公表を行うことができます(景品表示法7条1項)。
また、事業者が措置命令に従わない場合、刑事罰(2年以下の懲役又は300万円の罰金、又はその両方)の対象にもなります(景品表示法36条)。
5. ポイント
- 2023年10月1日以降、景品表示法上の違法な不正表示として、新たにステマ行為が規制の対象となりました。
- 事業主ではなく、第三者が商品・サービスについての表示(広告)を行う場合でも、事業者がその表示内容の決定に関与した場合、事業主による表示(広告)として、違法なステマ行為に該当する可能性があります。
- 広告表示を行う場合でも、その広告表示が、商品・サービスを供給する事業主による広告であることが明瞭とはいえない場合には、違法なステマ行為に該当する可能性があります。
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