法律コラム

Q&A<知的財産権・著作権トラブル対応>Tシャツのイラスト・デザインは著作物ですか?裁判例(応用美術)から著作物の判断基準を弁護士が解説します。

2024.02.13

よくある相談例:

  1. Tシャツのデザインを他社にマネされました。
  2. 他社のTシャツのイラストを参考にしてもいいですか?
  3. イラスト付きのTシャツを販売してイラストを普及させたい。

Tシャツのイラスト・デザインは「著作物」ですか?

 まず、著作権法上の保護を受けるためには、「著作物」と判断される必要があります。

 創作したイラストやデザインが「著作物」と判断されない場合、他人にイラストやデザインをマネされてしまっても、著作権法に基づき損害賠償請求や差止請求することができません。つまり、著作権侵害を判断する上では、「著作物」といえるかどうかが重要な問題になります。

 ここでいう「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。

著作物とはいえないもの:

  1. レストランのメニュー
  2. 料金表
  3. 歴史的事実
  4. アイデアそのもの

 著作権法を考える上では、まず、問題となっているイラストやデザインが「著作物」といえるかどうかについて検討する必要があります。

応用美術とは?ーTシャツのイラスト・デザインの特殊性を考えるー

 Tシャツのイラストやデザインは、「応用美術」と判断されることがあって、著作物性の判断基準のハードルが高くなることがあるため、注意する必要があります。

 応用美術とは、純粋美術(専ら表現の鑑賞を目的として制作されるもの)に対比する概念として用いられ、実用に供され、又は産業上利用される美的な創作物(美的な要素を備えた実用品)をいいます。

応用美術の具体例:

  1. 美術工芸品、装身具等実用品自体であるもの
  2. 家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの
  3. 文鎮のひな形等量産される実用品のひな形として用いられることを目的としているもの
  4. 染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするもの

 応用美術は、純粋美術と比較すると、実用目的や産業上の利用目的という制約を受けながら創作され、意匠法による保護と重なる部分があります。

 そうすると、厳格な出願審査手続を要求し、一定の保護期間を設定する意匠法の趣旨を没却せず、意匠登録のメリットを確保するためにも、無条件に著作物性を肯定することができないと考えられています。

 そのため、応用美術が著作権法の「著作物」といえるためには、意匠法との境界線を示すため、著作権法で当然に保護を受ける純粋美術と同視できる必要があるという考え方が有力です。

 近時の裁判例では、物品の実用面から分離して独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えた表現を有する場合に著作物性を認めるという考え方を採用する裁判例が増えています。

 例えば、ファッションショー事件(知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁)では、「実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる」場合、美術の著作物として保護するという判断を行っています。

 また、タコの滑り台事件(知財高判令和3年12月8日)は、「応用美術のうち、美術工芸品以外のものであっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては、当該部分を含む作品全体が美術の著作物として、保護され得ると解するのが相当である」としています。

 そのため、Tシャツのイラスト・デザインが、いわゆる「応用美術」と判断される場合、著作物として認められるハードルが高くなるため、注意する必要があります。

著作物性を否定した裁判例ー婦人服花柄模様事件(大阪地判平成29年1月19日)

 原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは、「5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく、少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない」等とし、「原告商品2を全体としてみても、実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。」とし、著作物性を否定しました。

著作物性を肯定した裁判例

①ティーシャツ原画事件(東京地判昭和56年4月20日)

 「本件原画は、原画甲と同種類のものであり、下方に花の模様を、左右両側にイルカの躍動的な動きを配置し、中心に波にのまれそうになりながらバランスをとろうとしているサーフアーの瞬間的な姿を描いたもので、全体として十分躍動感を感じさせる図案であり、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、客観的、外形的にみて、テイーシヤツに模様として印刷するという実用目的のために美の表現において実質的制約を受けることなく、専ら美の表現を追求して制作されたものと認められる。」とし、著作物性を肯定しました。

②猫イラスト事件(大阪地判平成31年4月18日)

 判決は、原告イラストの表現上の特徴を看取できることから、ありふれたものということはできず、創作性を肯定するとともに、応用美術であるという主張に対し、「原告イラスト作成後、それを広めるために、あるいは商業的に利用するために、Tシャツ販売サイトを介して、原告イラストを付したTシャツを販売したことが認められるが、これは原告が創作した美術の著作物を用いたTシャツを販売したにすぎないから、このことは、原告イラストの著作物性を否定する理由とはなら」ないとし、著作物性を肯定しました。

*上記裁判例は、Tシャツのイラストについて、応用美術であるという判断をしていません

③Tシャツイラスト事件(東京地判令和5年9月29日)

 「原告イラスト2は、Tシャツ等の衣類の胸元等に印刷されていたことが認められるところ、当該Tシャツ等が上衣として着用して使用するための構成を備えていたとしても、イラストとしての美的特性が変質するものではなく、また、当該Tシャツ等が店頭等に置かれている場合はもちろん、実際に着用されている場合であっても、その美的特性を把握するのに支障が生じるものでもないから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となる美的特性を把握することが可能である」とし、著作物性を肯定しました。

Tシャツのイラスト・デザインの著作権トラブルの注意点

1. 応用美術と判断されると、著作物として認められるハードルが高くなること

 Tシャツのイラスト・デザインがいわゆる応用美術と判断されると、著作物として認められるハードルが高くなります。具体的には、物品の実用面から分離して独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えた表現を有すると判断される必要があります。

 そのため、Tシャツにプリントするためにイラストやデザインを作成する前に、まずは、イラストやデザイン自体をTシャツとは別に販売したりすることも検討し、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えた表現であることを明確にしておく必要があります。

 また、ありふれたデザインや典型的な絵柄・業界の慣習から標準的な絵柄や模様も、著作物性が否定されてしまうこともあります。そのため、「独立に美的鑑賞の対象となる美的特性」を考慮し、一工夫を忘れないようにしておく必要があります。

 もう一点、注意が必要なのは、著作物性が肯定されたとしても、侵害が疑われる商品が著作権を侵害していること(類似性や酷似性)も主張立証する必要があります。

 この類似性や酷似性は創作性が認められる表現上の特徴部分が共通しているかどうかで判断されるため、表現上の特徴部分を把握し、その共通性を検討する必要があります。著作物性が肯定されたとしても、著作権侵害が否定されるケースもあります。

2. Tシャツのイラスト・デザインでも著作権のトラブル・紛争に巻き込まれる可能性があること

 Tシャツのイラスト・デザインでも、著作権のトラブル・紛争に巻き込まれる可能性はあります。このことは、裁判例でもTシャツのイラスト・デザインに起因して、著作権訴訟が起きていることからも明らかです。

 よくあるイラストであるとか、ありふれたデザインであるから大丈夫などと安易に考えず、著作権のトラブル・紛争に巻き込まれるリスクを理解しておくことも重要です。

 もし、著作権のトラブル・紛争に巻き込まれたときでも、著作権法の観点から適切な対応を行うことが必要です。

 もちろん、著作権を主張する側の理解や認識が間違っている可能性もあるため、著作権を主張する側の主張を鵜呑みにするのではなく、著作権法の視点から検討する必要があります。

3. 著作権法に加えて、意匠法、不正競争防止法や不法行為(民法)の問題になる可能性もあること

 Tシャツのイラスト・デザインのトラブル・紛争については、実は、著作権法以外の意匠法、不正競争防止法や不法行為(民法)に基づく請求が行われることもあり、法的には、複雑で、専門的な分野といえます。

 請求する側であれば、著作権法外の法分野(意匠法、不正競争防止法、民法)も検討するべきですし、請求される側では著作権法外の法分野(意匠法、不正競争防止法、民法)も請求される可能性があり、適切な判断が難しいこともあります。

 請求する側/請求される側いずれの立場にかかわらず、請求する(される)根拠について判断が難しい場合、速やかに専門家(弁護士)に相談することをおススメします。

弁護士法人かける法律事務所が対応できること

 弁護士法人かける法律事務所には、著作権問題に対応できる弁護士が在籍しています。著作権侵害で警告や訴訟提起を受けたら、まずは、ご相談ください。お問い合わせは、こちらです。

弁護士に依頼できること

  1. 著作権を侵害しているかどうか知りたい。
  2. 損害賠償の減額交渉できるかどうか知りたい。
  3. 解決金を支払いたいが、しっかりと和解契約書(示談書)を作成したい。
  4. 著作権トラブルについて民事訴訟が提起され、訴状が届いた。
  5. 話し合いがまとまらず、民事訴訟に発展するかもしれない。

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務や著作権に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。