法律コラム

Q&A<契約書対応>取引基本契約書とは?取引基本契約書を作成する理由や必要性について弁護士が解説します。

2024.06.14

よくある相談例

  1. 継続的な取引を行っているが、契約書を作成していない。
  2. 取引先から取引基本契約書の締結を依頼されている。
  3. 取引基本契約書を修正したいが、修正方法がわからない。

取引基本契約書とは?

 取引基本契約書とは、企業間(B to B)で継続的に行われる取引に適用される共通の取引条件やルールを定める契約をいいます。

 継続的に行われる取引では、発注する商品やサービスごとに個別契約が成立します。取引基本契約書を締結する場合、個別契約で特約(特別な合意)がない限り、取引基本契約書で合意した取引条件が適用されます。

 取引基本契約書には、「売買基本契約書」、「業務委託基本契約書」、「製造委託基本契約書」、「継続的取引基本契約書」、「外注基本契約書」、「開発基本契約書」等様々な名称がありますが、継続取引の基本的な取引条件やルールを定めている点で共通します。

*個別契約では、取引ごとに個別契約書を作成することもありますが、注文書や請書によって行われることもあります。

取引基本契約書の作成が必要となるケース

ケース①自動車メーカーと部品メーカー

自動車メーカーが販売する自動車の部品の製造を部品メーカーに委託するとき、自動車メーカーと部品メーカーとの間で取引基本契約書(製造委託基本契約書)の作成が行われる。

ケース②食品メーカーと原材料メーカー

食品メーカーが原材料メーカーから原材料の供給を受けるとき、食品メーカーと原材料メーカーとの間で取引基本契約書(売買基本契約書)の作成が行われる。

ケース③大手コンビニと製造メーカー

大手コンビニが自社ブランドの商品(OEM)を製造メーカーに製造委託するとき、大手コンビニと製造メーカーとの間で取引基本契約書(OEM基本契約書)の作成が行われる。

ケース④システム提供会社とシステム保守会社

システム提供会社がシステム保守会社に継続的な保守サービスを依頼するとき、システム提供会社とシステム保守会社との間で取引基本契約書(システム保守基本契約書)の作成が行われる。

ケース⑤衣料販売店と衣料メーカー

衣料販売店が衣料メーカーから継続的に商品を仕入れるとき、衣料販売店と衣料メーカーとの間で取引基本契約書(売買基本契約書)の作成が行われる。

取引基本契約書の内容

 取引基本契約書では、以下の条項が含まれています。

  1. 取引基本契約の目的
  2. 適用範囲
  3. 個別契約の内容と成立
  4. 納品や検査(検収)
  5. 所有権の移転/危険負担
  6. 仕様
  7. 品質保証
  8. 代金の支払方法
  9. 支給品や貸与品
  10. 契約不適合責任
  11. 製造物責任
  12. 知的財産権の帰属
  13. 知的財産権その他第三者の権利及び利益の侵害への対応
  14. 損害賠償の範囲
  15. 再委託
  16. 契約上の地位や権利義務の譲渡の禁止
  17. 不可抗力
  18. 守秘義務
  19. 通知義務
  20. 契約期間
  21. 反社会的勢力の排除
  22. 解約
  23. 解除
  24. 準拠法
  25. 裁判管轄

取引基本契約書を作成する必要性

① 取引条件の明確化によるトラブル・紛争の未然の防止(予防法務)

 日本の法律(*)では、契約書を作成しなくても、法的には、口頭でも契約が有効に成立します(契約方式の自由)。

 もっとも、口頭では取引条件が不明確となってしまい、取引当事者間の認識の差異が生じ、トラブルが発生することがあります。例えば、支払方法や支払条件を書面で定めておかないと、代金の支払に際して、取引当事者間の認識に差異が生じ、トラブルが発生することがあります。

 また、基本的な取引条件が決まっていれば、未然にリスクを予測することが可能となり、重大なリスクを回避するための方法を検討できます。例えば、取引基本契約書では、損害賠償の範囲を定めており、その定めに応じて、リスクの内容や範囲を判断できます。

 取引条件を明確化し、トラブル・紛争を未然に防止するため、継続取引に共通する基本的な取引条件(ルール)を定めることは大切です。

 そのため、企業間の継続的な取引では、取引基本契約書の作成が活用されます。

*民法522条2項:
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

② トラブル・紛争の早期かつ円満な解決(臨床法務)

 企業間の継続的な取引において、トラブルが発生したとき、基本的な取引条件を定めていないと、トラブルを解決するための基準がないため、両当事者が納得して解決することが難しくなり、トラブルの解決が長期化したり、円満な解決ができないときがあります。

 例えば、損害賠償の範囲が定まっていないと、損害賠償を請求する側と請求される側では、立場が異なるため、認識に隔たりがあって、合意できないこともあります。最悪の場合、訴訟による解決(裁判所による判断)が必要となり、無駄な時間・労力・費用が発生してしまうこともあります。

 トラブル・紛争が発生したときに、早期かつ円満な解決を可能とするためにも、企業間の継続的な取引では、取引基本契約書の作成が期待されます。

③ 取引開始の条件とされること

 大企業や外資系企業等管理体制が徹底される企業との間で取引を行う場合、取引基本契約書の締結が取引開始の条件とされることがあります。この場合、取引基本契約書を締結しなければ、このような企業との間で取引を行うことができません。

 日本の中小企業では、まだまだ契約書を作成する風土がない企業もありますが、コンプライアンスが重視される現代社会では、取引を行う上では契約書を作成することが必須になります。

 企業間で継続的な取引をスムーズに進めるためには、取引基本契約書の作成が必要となります。

④ 画一的な取引によって管理コストの軽減が可能となること

 多くの取引先との間で取引を行う場合、画一的・定型的な取引条件を定めておかないと、取引先ごとに取引条件が異なると、管理が複雑となり、その管理に伴う労力や費用が膨大となってしまいます。管理コストを軽減するためにも、取引基本契約書を活用し、基本的な取引条件やルールを定めておく必要があります。

取引基本契約書を作成しない場合のデメリット(不利益)

① 取引が開始できないリスク

 取引基本契約の締結が取引の開始条件とされる場合、取引を開始できず、折角、取引の開始に向けて、経営者や営業担当者が順調に取引の話し合いを進めていても、取引を開始できず、企業の売上や利益に深刻な影響を与えます。

 もちろん、取引基本契約書で定められる取引条件を慎重に検討することは大切ですが、ビジネスに重大な支障を与えないように、法的リスクの内容や程度を見極めた上で、スピーディーに意思決定していくことも必要です。

 取引基本契約書を締結できなかったことを理由に、ビジネスチャンスを逃さないように注意する必要があります。

② トラブル・紛争の顕在化

 取引基本契約書を作成せず、重要な取引条件を決めていない場合、トラブル・紛争が顕在化するリスクがあります。例えば、支払条件を決めておらず、商品やサービスを提供した後、代金を請求したときに、支払を拒否されるという事態が生じることもあり得ます。

 また、取引基本契約書を作成せず、取引を開始してしまうと、相手方から、まだ依頼していないとか(契約していないとか)、商品・サービス内容が決まっていないという理由で、代金を請求できないこともあります。

 このような場合、裁判手続によって債権回収を行う必要がありますが、裁判所は、証拠(契約書等)がなければ、代金請求を認めません。

 特に、代金を請求する場面では、取引条件を明確化し、証拠(契約書や発注書・受注書)を確保しておかなければ、その請求が認められないこともあるので、注意が必要です。

③ コンプライアンス違反(法令違反)の可能性

 日本の法律では、契約書を作成しなくても、法的には、口頭でも契約が有効に成立するとされています(契約方式の自由)。

 もっとも、一部の取引では、法令上、契約書の作成が求められることもありますし、法令を遵守していることを確認するためにも、契約書の作成が必要となることがあります。

 例えば、下請法では、下請代金の支払期日を物品等を受領した日から起算して60日以内で、できる限り、短い期間内で定める義務がありますが(下請法2条の2)、下請法が定める支払期限内に支払っていることを確認するためにも、取引基本契約書を作成し、支払期限を明確化しておくことも重要です。

取引基本契約書の作成・チェックは弁護士に依頼できます。

 取引基本契約の作成が必要であるとしても、①取引基本契約書の作成方法がわからない、②取引基本契約書が不利益な内容になっていないか気になる、③取引基本契約書について修正を求めたいが、修正方法がわからないという相談を受けることがあります。

 取引基本契約書の作成・チェックは、弁護士に依頼できます。

弁護士に相談・依頼できる内容:

  • 取引基本契約書(ひな型)の作成
  • 取引基本契約書のリーガルチェック
  • 取引基本契約書の修正
  • 取引交渉のアドバイス
  • 覚書の作成や修正

具体例:

  • 取引基本契約書(ひな型)を作成したい。
  • 取引基本契約書に重大な不利益・リスクがないかチェックしてほしい。
  • 自社の希望に従い、取引基本契約書を修正したい。
  • 取引条件を交渉したいが、交渉方法や落としどころがわからない。
  • 取引基本契約書を修正する必要があるが、覚書で対応することになったが、覚書の作成方法がわからない。代わりに覚書を作成してほしい。

取引基本契約書の作成・チェックを弁護士に依頼するメリット

 弁護士は、紛争・訴訟を解決する実績を多く有するため、紛争・訴訟を未然に防止する加点から取引基本契約書をチェックし、法的リスクの内容や程度に応じた提案を行うことができます。これによって、重大なリスクかどうかを見極めたうえで、スピーディーな意思決定が可能となり、事業の持続的な成長に貢献します。

 また、契約書対応は、弁護士が専門的に対応する分野の一つであり、様々な業種や取引の知見や経験があります。難しい取引条件でも、現実的な落しどころや代替案を弁護士とともに検討することによって、取引先との信頼関係を維持しながら、自社の重大なリスクを回避した経営判断が可能となります。

 さらに、取引基本契約書を作成・チェックした弁護士であれば、万が一、その契約に起因して、トラブルや紛争が起因した場合でも、取引基本契約書を適切に解釈・適用しながら、トラブルや紛争を円満に解決するための対応も可能です。

 もちろん弁護士に相談・依頼する場合、弁護士費用も必要となりますが、顧問契約等を利用すれば、法務に精通する人材を正社員として採用する場合と比較すると、リーズナブルな費用で依頼することは可能です。

 取引基本契約書の作成・チェックについて、弁護士に依頼するメリットは数多くありますので、弁護士への依頼・相談を是非、検討ください。

契約書対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください。

 弁護士法人かける法律事務所では、企業法務/顧問契約について、常時ご依頼を承っております。

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細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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