法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>【2024年公布】情報流通プラットフォーム対処法(改正プロパイダ責任制限法)のポイントについて、弁護士が解説します。

2024.07.11

法改正のポイント

  1. プロバイダ責任制限法(プロ責法)から情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に法律名が変更されます。
  2. 法改正では、大規模なSNS事業者等に対する侵害情報送信防止措置(削除)に関する義務が定められました。
  3. 法改正の対象となる大規模なSNS事業者等は、今後、総務大臣が指定します。

*このコラムは、2024年6月21日時点で把握できる情報に基づき作成しています。

1. プロパイダ責任制限法とは?

 プロパイダ責任制限法とは、2001年に成立した「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」の略称です。

 プロパイダ責任制限法は、主に、①プロバイダの損害賠償責任の制限、②発信者情報開示請求の手続、③発信者情報開示命令事件に関する裁判手続について定めた法律です。 

 プロパイダ責任制限法は、2022年に大きな改正がされており、その際には、発信者情報開示請求に関して新たな裁判手続(発信者情報開示命令制度)が設けられるなどの改正がされました。

 2024年の通常国会では、プロパイダ責任制限法の改正案が可決・公布され、法律名が「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法・プロ責法)から「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法・情プラ法)に変更されることになりました。

 改正法は、公布日(2024年5月17日)から1年以内に施行されますが、このコラムでは、その改正の背景や内容等について、解説します。

総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 に関する法律の一部を改正する法律案の概要

2. 改正法の目的や概要

 これまで、違法な投稿(権利侵害情報)に関する発信者情報開示請求については、プロパイダ責任制限法の中で手続が整備されてきました。その一方で、違法な投稿(権利侵害情報)の削除手続については、専らサイト管理者やプロバイダに委ねられ、法律としては特に整備されていませんでした。

 もっとも、現在、SNSや匿名掲示板を中心に誹謗中傷被害が多発している現状があり、違法な投稿に関する削除手続について、より迅速な対応が行われるべき要請が強まっています。

 そこで、今回の改正では、大規模なSNS事業者等(SNS、匿名掲示板等)を対象に、侵害情報送信防止措置(削除)について、①実施の迅速化や②実施状況の透明化を図るための義務を定めることになりました。

3. 対象事業者(規制対象となる大規模なSNS事業者等)

 改正法では、大規模なプラットフォーム事業者等(大規模特定電気通信役務提供者)が規制対象になり、対象事業者を、総務大臣が指定することになっています(改正法20条1項)。

 この指定に関する具体的基準は、今後、総務省令等によって定められる予定です。もっとも、改正の背景や趣旨を踏まえると、大規模なSNS事業者(X、Instagram、TikTok等)や匿名掲示板の運営者(2ちゃんねる、5ちゃんねる等)が、主な対象になると思われます。

改正法20条1項

 総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その 利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の 迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの (以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、 大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。

一 当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。
イ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると 推定される者を除く。ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定 める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二 項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。ロ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

二 当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報 の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。 以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること。

三 当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。

4. 対象事業者の義務内容

 対象事業者に義務付けられる侵害情報送信防止措置(削除)の内容は、主に以下の通りです。

① 対応の迅速化のための措置

  • 削除手続に関する窓口の整備及び公表
  • 削除の申出があった際の速やかな調査の実施
  • 侵害情報調査専門員の選任、総務大臣への届出
  • 削除の申出者に対する通知(原則として14日以内)

② 手続の透明化に関する措置

  • 削除手続の実施に関する基準等の公表
  • 削除措置を講じた場合の発信者に対する通知等
  • 削除手続の実施状況等の公表

5. まとめ

 今回の法改正により、これまで整備されてこなかった削除手続(侵害情報送信防止措置)について、法整備が行われることになり、大規模なSNS事業者等に対する規制が追加されました。

 どこまでの事業者が実際に規制対象となるのか、また、規制内容について実効性がどこまで担保されるのか等不透明な部分も多いですが、今回の法改正によって、インターネット上の誹謗中傷被害に関して、より迅速かつ適切な削除手続対応が行われることが期待されます。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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