法律コラム

Q&A<独占禁止法・下請法>下請代金の減額の禁止とは?公正取引委員会による日産自動車株式会社に対する勧告事例を踏まえて解説します。

2024.07.22

よくある相談例:

  1. 下請代金の減額の禁止とは、どのようなケースですか?
  2. 下請代金の減額が禁止される根拠や理由が知りたい。
  3. 公正取引委員会によって勧告されるケースを知りたい。

はじめに

 令和6(2024)年3月7日、公正取引委員会は、日産自動車株式会社に対して、下請代金の減額の禁止(下請法4条1項3号)に違反する行為が認められたことを理由に勧告を行いました。勧告の詳細は、こちらです。

 本コラムでは、「下請代金の減額の禁止」について、詳しく説明します。

違反事実の概要

  • 日産自動車は、資本金の額が3億円以下の法人たる事業者(以下「下請事業者」という。)に対し、自社が販売する自動車の部品等の製造を委託している。
  • 日産自動車は、令和3年1月から令和5年4月までの間、自社の原価低減を目的に、下請代金の額から「割戻金」を差し引くことにより、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。減額した金額は、総額30億2367万6843円である(下請事業者36名)。
  • 日産自動車は、令和6年1月31日、下請事業者に対し、前記⑵の行為により減額した金額を支払っている。

下請法とは?

 下請法とは、「下請代金支払遅延等防止法」の略称で、下請取引の公正化や下請事業者 の利益保護を目的としており、中小企業政策の重要な柱となっている法律です。

 下請法では、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるため、①親事業者の義務や②親事業者の禁止事項を定めています。

①親事業者の義務

・書面の交付義務
・支払期日を定める義務
・書類の作成・保存義務
・遅延利息の支払義務

②親事業者の禁止事項

 受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、買いたたき、購入・利用強制等

下請代金の減額の禁止とは?

 下請法4条1項3号は、親事業者が下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に定めた下請代金を減額することを禁止しています。

 「歩引き」や「リベート」等減額の名目や方法にかかわらず、また、減額する金額の多寡にかかわらず、発注後に下請代金を減額すると下請法代金の減額の禁止(下請法4条1項3号)に違反することになります。

 下請代金の減額の禁止は、親事業者と下請事業者では、下請事業者の立場が弱いため、一旦決まった下請代金について、事後的に減額を要求されやすいこと、また、下請事業者がこのような要求を拒否することが困難なことが多く、下請事業者の利益が直接的に損なわれるため、禁止されます。

*「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法に加えて、親事業者の口座へ減額する金額を振り込ませる方法も含まれます。

下請法4条(親事業者の遵守事項)1項

 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

違反行為の具体例ー下請代金の減額の禁止

 下請代金の減額の禁止について、違反行為の具体例を説明します。もし、以下の取引を行っている場合、下請法に違反している可能性があります。

  1. 消費税や地方消費税額相当分を支払わなかった。
  2. 親事業者による必要な原材料等の支給が遅れたため、納期に間に合わなかったところ、下請事業者に責任があると主張し、下請代金を減額して、代金を支払った。
  3. 下請代金の総額をそのままにして、納品数量を増加させる。
  4. 下請事業者と単価の引き下げについて合意したが(新単価)、合意日以前の取引(旧単価)についても、新単価を適用し、旧単価と新単価の差額を差し引く。
  5. 取引先から親事業者に対する発注が取り消されたことを理由に下請代金からキャンセル部分の対価を差し引く。

下請代金の減額の禁止の注意点

① 下請事業者の責めに帰すべき理由は限定的に解釈されること

 「下請事業者の責めに帰すべき理由」がある場合、下請代金の減額が許容される場合もありますが、「下請事業者の責めに帰すべき理由」は限定的に解釈されます。例えば、下請取引適正化推進講習会テキスト53頁(令和3年11月)では、以下の場合に限定されると説明されています。

  • (ア)下請事業者の責めに帰すべき理由(瑕疵の存在,納期遅れ等)があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合に,受領拒否又は返品をして,その給付に係る下請代金の額を減ずるとき。
  • (イ)下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって,受領拒否又は返品をせずに,親事業者自ら手直しをした場合に,手直しに要した費用 など客観的に相当と認められる額を減ずるとき。
  • (ウ)下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない 場合であって,受領拒否又は返品をせずに,瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に,客観的に相当と認められる額を減ずるとき。

② 下請代金の減額という名目や名称ではない場合であっても、下請法に違反すると判断される可能性があること

 これまで下請代金の減額の禁止に違反するとされたケースでは、その名目や名称について、「歩引き」、「仕入歩引」、「不良品歩引き」、「リベート」、「協定販売促進費」、「特別価格協力金」、「販売奨励金」、「販売協力金」、「一時金」、「協力費」、「コストダウン協力金」、「支払手数料」、「手数料」等様々です。

 下請代金の減額という名目や名称ではなくても、下請法に違反すると判断される可能性があるため、注意する必要があります。

*親事業者が下請事業者に電磁的記録の提供を行うこととした場合、システム開発費、保守費等本来親事業者が負担すべき費用をシステム利用料等として下請代金から徴収している場合、下請法に違反します。*システムが稼動していないのにシステム利用料等を徴収している場合、下請法に違反します。

③ 下請事業者が同意又は合意する場合でも下請法違反となること

 下請法では、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の減額を禁止しています。

 そのため、下請事業者があらかじめ同意又は合意する場合でも、下請代金を減額することについて、下請法に違反すると判断されることがあります。下請事業者が合意又は同意しているからといって、安易な下請代金の減額には注意する必要があります。

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細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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