法律コラム

Q&A<独占禁止法・下請法>返品の禁止とは?公正取引委員会によるトヨタ自動車の子会社に対する勧告事例を踏まえて解説します。

2024.07.29

よくある相談例:

  1. 返品の禁止とは、どのようなケースですか?
  2. 下請法の観点から返品を行う場合の注意点を知りたい。
  3. 公正取引委員会によって勧告されるケースを知りたい。

はじめに

 令和6(2024)年7月5日、公正取引委員会は、トヨタ自動車の子会社である株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメントに対して、返品の禁止(下請法4条1項4号)や不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法4条2項3号)に違反する行為が認められたことを理由に勧告を行いました。勧告の詳細は、こちらです。

 本コラムでは、「返品の禁止」について、詳しく説明します。

違反事実の概要

  • 返品の禁止
    トヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、下請事業者に対し、下請事業者から製品を受領した後、当該製品に係る品質検査を行っていないにもかかわらず、当該製品に瑕疵があることを理由として、令和4年7月から令和6年3月までの間、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該製品を引き取らせていた。
  • 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
    トヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、下請事業者に対して自社が所有する金型等(製品の製造に用いる金型、製品の塗装・メッキ処理等の加工を行う際に用いる治具及び製品のサイズを正確に確認するための計測器具である検具)を貸与していたところ、遅くとも令和4年7月1日以降、当該金型等を用いて製造する製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計664個の金型等を無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者49名)。

下請法とは?

 下請法とは、「下請代金支払遅延等防止法」の略称で、下請取引の公正化や下請事業者 の利益保護を目的としており、中小企業政策の重要な柱となっている法律です。

 下請法では、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるため、①親事業者の義務や②親事業者の禁止事項を定めています。

①親事業者の義務

・書面の交付義務
・支払期日を定める義務
・書類の作成・保存義務
・遅延利息の支払義務

②親事業者の禁止事項

 受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、買いたたき、購入・利用強制等

返品の禁止とは?

 下請法4条1項4号は、親事業者が下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、下請事業者から納入された物品や情報成果物を受領した後に、下請事業者に当該物品や当該情報成果物を返品することを禁止しています。

 下請取引では、親事業者が指定する仕様等に基づいた特殊なものが多く、親事業者から返品されると、他社への転売が困難であり、下請事業者の利益が大きく損なわれるため、下請事業者に責任がない返品を禁止することを目的としています。

下請法4条(親事業者の遵守事項)1項

四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

違反行為の具体例ー返品の禁止

 返品の禁止について、違反行為の具体例を説明します。もし、以下の取引を行っている場合、下請法に違反している可能性があります。

  1. 親事業者は、親事業者のブランドを付した衣料品の製造を下請事業者に委託しているところ、シーズン終了に伴い売れ残った商品を下請事業者に引き取らせた。
  2. 親事業者は、土産品等の製造を下請事業者に委託しているところ、売れ残った商品について、賞味期限を理由に下請事業者に返品し、引き取らせた。
  3. 親事業者は、染加工を下請事業者に委託しているところ、下請事業者から納品されたものを一旦受領した後、以前には、問題としていなかったような色むらを指摘して、下請事業者に引き取らせた。
  4. 親事業者は、機械部品の製造を下請事業者に委託しているところ、下請事業者から納入された機械部品を受領し、12か月後に瑕疵があるとの理由で下請事業者に返品し、引き取らせた。
  5. 親事業者は、衣服の製造を下請事業者に委託しているところ、納入された製品の検査を行っていないが、下請事業者から製品を受領した後に不良品であることを理由として引き取らせた。

返品の禁止の注意点

① 下請事業者の責めに帰すべき理由は厳格に判断されます。

 下請事業者の責めに帰すべき理由は、ア)下請事業者の給付内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合や、イ)下請事業者の給付に瑕疵等がある場合に限定されます。

 この際、以下のような場合には、瑕疵等があることを理由に返品することは認められないとされているため(下請取引適正化推進講習会テキスト62頁(令和3年11月))、注意する必要があります。

  • 3条書面に委託内容が明確に記載されておらず、又は検査基準が明確でない等のため、下請事業者の給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合
  • 発注後に恣意的に検査基準を変更し、従来の検査基準では合格とされた給付を不合格とした場合
  • 給付に係る検査を省略する場合又は給付に係る検査を親事業者が行わず、かつ、当該検査を下請事業者に文書で委任していない場合

② 返品できる期間が限定されていること

 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして返品できる期間は、下請事業者の給付に瑕疵等が直ちに発見できるか否かや検査方法によって異なるため、注意する必要があります。つまり、下請法では、返品期間が限定されており、無期限に返品できるわけではありません。

  • ア 直ちに発見できる瑕疵がある場合
    下請事業者の給付に直ちに発見することができる瑕疵がある場合、受領後速やかに返品することは可能です。ただし、この場合であっても、親事業者が意図的に検査期間を延ばしたり、その後に返品することは認められません。
  • イ 直ちに発見できない瑕疵がある場合
    下請事業者の給付に直ちに発見することができない瑕疵がある場合、給付の受領後6か月以内に返品することは、下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして認められますが、6か月を超えた後に返品すると下請法違反になります。
    ただし、下請事業者の給付を使用した親事業者の製品について、一般消費者に対して6か月を超えて、保証期間を定めている場合、その保証期間に応じて最長1年以内であれば、返品することが認められます。

③ 下請事業者が同意又は合意する場合でも下請法違反となること

 下請法では、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者に、その給付に関する物品等を引き取らせることを禁止しています(返品の禁止)。

 そのため、下請事業者があらかじめ同意又は合意する場合でも、物品等を返品することについて、下請法に違反すると判断されることがあります。下請事業者が合意又は同意しているからといって、安易な返品には注意する必要があります。

 この点について、親事業者が下請事業者との間で再び受け取ることを約束して、受領した物品等を一旦、返品する場合でも、下請法に違反する可能性があるとされています。

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  • 親事業者から下請法に違反する条件を提示されているが、対応方法がわからない。
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細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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