法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>~新たに導入された発信者情報開示命令手続(開示命令・提供命令)の活用について、弁護士が解説します~

2024.10.23

よくある相談

  1. 新たに導入された発信者情報開示命令手続の活用方法を知りたい。
  2. 開示命令や提供命令の詳しい内容を知りたい。
  3. 新たな裁判手続によって開示請求者側の負担は軽減されますか。

発信者情報開示命令手続とは?

 発信者情報開示命令手続とは、2021年のプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の改正によって、新たに導入された裁判手続です。

 プロバイダ責任制限法の改正前は、仮処分(保全手続)や民事訴訟といった裁判手続を用いて発信者情報開示請求が行われていました。

 もっとも、改正前の手続では、開示に辿り着くまでに複数の裁判手続が必要になり、開示請求者側の負担が重くなったり、また、手続に時間がかかる結果、プロパイダ側でログが消去され、結局、発信者(投稿者)を特定できないという不都合がありました。

 そのため、これらの不都合を解消し、より迅速に発信者(投稿者)を特定するという目的で導入されたのが、発信者情報開示命令手続(プロバイダ責任制限法第8条)になります。

 このコラムでは、発信者情報開示命令手続(特に、提供命令手続)について、詳しく解説します。

プロバイダ責任制限法第8条(発信者情報開示命令)
裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

具体的な手続の流れ-開示命令/提供命令

 発信者情報開示命令は、まず、コンテンツプロバイダ(X・Instagram・note等、誹謗中傷投稿が行われたサイト)を相手方として、裁判所(基本的に東京地方裁判所)に申立てをします。

 その際、発信者情報開示命令の申立てと同時に、「提供命令」(プロバイダ責任制限法15条)を申し立てることができます。今回は、この「提供命令」を用いた発信者情報開示命令手続の流れについて、説明します。

ア 改正前の手続の流れ

 プロバイダ責任制限法の改正前(発信者情報開示命令の導入前)では、SNSや掲示板等のウェブサイトで誹謗中傷が行われた場合、以下のような流れで開示請求をすることが基本でした。

  1. コンテンツプロバイダ (SNSの運営会社・インターネット掲示板の管理者) に対する開示請求 (仮処分手続)

  2. IPアドレス等の開示

  3. 開示請求者側で、IPアドレス等からアクセスプロバイダ (NTT・ソフトバンク等の通信事業者) を調査・特定した上で、アクセスプロバイダに対する開示請求 (民事訴訟) を行う。

    ※開示請求者が、発信者の特定に必要な情報 (IPアドレス等) をアクセスプロバイダに提供して、発信者 (回線契約者) を特定してもらう。

  4. 発信者 (回線契約者) の開示

 このように、コンテンツプロバイダに対する開示請求手続とアクセスプロバイダに対する開示請求手続が分断されていました(2段階の手続)。

 そのため、コンテンツプロバイダからIPアドレス等の開示を受けた後、開示請求者側で、アクセスプロバイダを調査・特定したり、発信者の特定に必要な情報を判断してアクセスプロバイダに提供する必要があったりと、開示請求者にとって手続上の負担が大きかったといえます。

イ 改正後の手続の流れ(提供命令を用いた場合)

 これに対し、発信者情報開示命令の申立てと併せて提供命令の手続を利用した場合、以下のような流れで手続が進むことになります。

  1. コンテンツプロバイダ (SNSの運営会社・インターネット掲示板の管理者) に対する開示請求 (開示命令+提供命令)

  2. コンテンツプロバイダがアクセスプロバイダを調査・特定し、開示請求者側に情報提供する。

  3. アクセスプロバイダに対する開示請求 (開示命令) を行う。

  4. コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対し、発信者の特定に必要な情報が提供され、情報の保存措置が採られる

  5. 発信者 (回線契約者) の開示

 このように発信者情報開示命令の申立てと併せて提供命令手続を用いることで、開示請求者側でアクセスプロバイダを調査する必要がなく、また、発信者の特定に必要な情報についても、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの間で情報のやり取りがされます。

 そのため、開示手続上の細かい処理手続について、開示請求者側の負担が軽減され、より簡易迅速に、開示請求を進めることが可能になったと評価できます。

開示請求の実務への影響

 弁護士法人かける法律事務所でも、国内会社が運営するウェブサイト(インターネット掲示板等)を中心に、実際に開示命令や提供命令の手続を用いて開示請求を行ったケースがあります。

 これらのケースでも、コンテンツプロバイダに対する手続とアクセスプロバイダに対する手続が一体化され、必要な細かい処理手続について、開示請求者側の負担が軽減されていることを実感しています。

 もっとも、コンテンツプロバイダによっては、提供命令手続の対応(開示請求者やアクセスプロバイダへの情報提供)が遅いといった問題もまだあるため、提供命令を用いるかどうかは、ケース毎に判断する必要があります。ただ、上手く利用すれば、開示請求者側の負担を実際に軽減できる手続と評価することが可能です。

新しい裁判手続(「開示命令」や「提供命令」)のポイント

  1. 2021年のプロバイダ責任制限法の改正によって、発信者情報開示請求に関して、「開示命令」や「提供命令」という新たな裁判手続が導入されました。
  2. 「提供命令」を用いることで、法改正前は開示請求者側に委ねられていた細かい処理手続の負担が軽減され、より簡易迅速に、開示手続を進めることができるケースがあります。
  3. 現状、「提供命令」手続への対応状況は、プロバイダによって異なるため、「提供命令」を用いるべきかどうかはケース毎に判断する必要があります。

弁護士法人かける法律事務所のサービスのご案内

 弁護士法人かける法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷における削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求その他お客様のニーズに合わせたサービスを提供しています。

 「開示請求ができるかどうか」「どのような流れで開示に至るのか」「どれくらいの時間と費用がかかるのか」等と言ったご不安や疑問に対して、法的な観点からアドバイスいたします。

 開示請求については、裁判手続が必要となることが一般的であるため、手続の内容や進め方についても、しっかりと説明させていただきます。

 当事務所では、「安心を提供し、お客様の満足度を向上させる」という行動指針(コアバリュー)に従い、各サービスを提供していますので、是非、お問合せください。

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