法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>~SNS投稿者を登録電話番号から特定する手続について、弁護士が解説します~

2024.11.18

よくある相談

  1. Instagramで誹謗中傷を受けており、投稿者を特定したい。
  2. X(旧Twitter)のアカウントに登録された電話番号から投稿者を特定できますか?
  3. IPアドレスや電話番号がわかれば、SNSでの投稿者を特定できますか?

発信者の特定方法~「IPアドレスルート」と「電話番号ルート」

 インターネット上で誹謗中傷が行われた場合、発信者(投稿者)を特定する方法としては、大きく分けて2つあります。

① IPアドレスから特定する方法(「IPアドレスルート」)

 まず、従来的な特定方法として、発信元のIPアドレスを起点に通信履歴を辿って発信者(投稿者)を特定するという方法があります。

 例えば、SNSで誹謗中傷が行われた場合、まず、SNS事業者(X、Meta等)に対する開示請求を行い、投稿やログインに関するIPアドレス等の開示を受けます。その後、開示されたIPアドレス等から投稿やログインに使用されたプロバイダ(通信事業者)を特定し、そのプロバイダに対する開示請求によって、発信者(回線契約者)を特定するという流れになります。

② SNSアカウントの登録電話番号から特定する方法(「電話番号ルート」)

 もう1つは、最近よく活用されている方法であり、誹謗中傷が行われたサイトに登録される電話番号から、発信者(投稿者)を特定するという方法です。

 例えば、SNSで誹謗中傷が行われた場合、まず、SNS事業者に対する開示請求を行い、誹謗中傷を行ったアカウントに登録された電話番号(認証用電話番号)の開示を受けます。その後、その電話番号を管理している電話会社に対して、弁護士会照会(弁護士法23条の2)という手続を行い、その電話番号の契約者情報(氏名・住所等)を開示してもらい、発信者を特定するという方法になります。

 特に、昨今では、SNS等を利用する際の本人認証(二段階認証)として電話番号を利用することが多くなっており、アカウントに電話番号が登録されているケースが一定数あります。

 そのため、「電話番号ルート」によって発信者が特定されるケースも増えており、発信者の特定方法として有力な手段になっています。

「電話番号ルート」のメリット

 「電話番号ルート」には、「IPアドレスルート」と比較して、有利な点があります。

① 特定できる可能性が高くなること

 「IPアドレスルート」によって発信者を特定しようとする場合、まず、ログ(通信記録)の保存期間という問題があります。

 すなわち、プロバイダ(通信事業者)においては、ログの保存期間が限られている場合が多く(一般的に3~6か月程度)、プロバイダに対して開示請求を行った時点で、既に対象のログが消去されており、発信者の特定が不可能というケースがあります。

 また、ログの保存期間の問題に加えて、最近の通信技術の発達(IPアドレスの共有技術等)によって、IPアドレス等だけでは発信者を特定できないといったケースもあります。

 「電話番号ルート」の場合、アカウントに電話番号が登録されていることは前提になりますが、情報の保存期間や技術上の問題で特定できないというケースが少なく、発信者を特定できる可能性が高まります。

② 発信者の絞り込みが容易であること

 「IPアドレスルート」の場合、発信者として開示されるのは、あくまで投稿に使用されたプロバイダの契約者になります。

 そのため、例えば、投稿者がインターネットカフェや会社が契約している通信回線から投稿を行った場合、プロバイダからは、回線契約者であるインターネットカフェや会社に関する情報しか開示されません。

 このような場合、発信者(投稿者)を絞り込むためには、さらに調査が必要になったり、最悪、発信者(投稿者)が特定できないという場合もあります。

 これに対して「携帯番号ルート」の場合は、SNS等のアカウントに登録された電話番号の契約者が開示されるため、電話番号の契約者=使用者=発信者(投稿者)であることが多く、「IPアドレスルート」と比較すると、発信者の絞り込みが容易です。

最近の法改正によって電話番号の開示請求が簡易迅速になったこと

 発信者情報開示請求の手続については、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律によって定められていますが、2021年の改正によって、「発信者情報開示命令」(以下「開示命令」といいます。)という新たな裁判手続(非訟手続)が設けられました。

 この「開示命令」手続では、IPアドレスだけでなく、電話番号やメールアドレスといった登録情報も開示対象とされています。

 そのため、SNS事業者等に対して、IPアドレスと併せて電話番号も同時に開示請求を行うことができるようになっています(法改正前は、IPアドレスの開示請求は仮処分という保全手続を用いる一方で、電話番号の開示については別途、SNS事業者等に対して民事訴訟を起こす必要がありました。)。

 この「開示命令」手続の導入によって、開示請求者にとって手続の負担が軽減されており、法改正前よりも、簡易迅速に電話番号の開示を受けることができるようになったと評価できます。

プロバイダ責任制限法第8条(発信者情報開示命令)
裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

「電話番号ルート」についての注意点

① 投稿内容が権利侵害に該当すること

 SNS事業者等にアカウントの電話番号の開示を請求する場合、前提として、問題となっている投稿が、法的に権利侵害(名誉毀損、プライバシー侵害等)に当たることが必要です。「誹謗中傷」と一口に言っても、明らかに権利侵害に当たるものもあれば、権利侵害とまではいえないものもあるため、権利侵害の該当性については検討する必要があります。

② 対象アカウントに電話番号が登録されていない可能性があること

 昨今では、アカウントにログインする際の本人認証のために電話番号を登録していることも増えてきていますが、発信者のアカウントに電話番号が登録されていないケースもあります。

 この場合は、電話番号ルートを用いることはできないため、IPアドレスルート等によって発信者を特定するしかありません。

③ 弁護士への依頼が必要なこと

 電話番号ルートを用いる場合、電話会社に対する弁護士会照会(弁護士法23条の2)という手続を行う必要があります。この照会手続は、弁護士が実際に開示請求の依頼を受けた場合にしか用いることができないため、弁護士への依頼が必要になります。

ポイント

  1. インターネット上の名誉毀損等について、発信者のアカウントに電話番号が登録されている場合は、アカウントに登録された電話番号を利用した手続(電話番号ルート)によって発信者(投稿者)を特定できる場合があります。
  2. 電話番号ルートによる特定手続のメリットとして、従来のIPアドレスからの特定手続(IPアドレスルート)と比較して、発信者を特定できる可能性が高まり、発信者の特定に至りやすいという点があります。
  3. 電話番号ルートによる特定手続では、弁護士会照会という手続によって電話会社から契約者を開示してもらう必要があるため、弁護士への依頼が必要となります。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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