法律コラム

Q&A<インターネット誹謗中傷対応>裁判手続における個人情報(氏名や住所)の秘匿制度(民事訴訟法133条)について弁護士が解説します。

2025.01.20

よくある相談

  1. 私は、匿名(仮名)やハンドルネームでSNS上で活動をしていますが、誹謗中傷を行う投稿者(加害者)に民事訴訟を提起すると、個人情報(住所・氏名)を知られますか?
  2. インフルエンサーとして活動していますが、裁判手続において、本名を知られたくありません。
  3. 新たに導入された裁判手続における個人情報の秘匿制度(民事訴訟法133条)について、教えてください。

秘匿制度(民事訴訟法133条)とは?

 民事訴訟を提起する場合、訴状等に自分の氏名や住所を記載して提出するのが法律上の原則となります(民事訴訟規則2条1項1号)。そのため、原告として民事訴訟を提起し、相手方(被告)に訴状が送達されると、相手方に自分の住所や氏名を開示されることが訴訟手続の基本的なルールになります。

 もっとも、誹謗中傷を受けて投稿者(加害者)に民事訴訟を起こす場合、自分の住所や名前を投稿者(加害者)に知られることにより、住所や氏名を晒されたり、より一層、加害行為が拡大するおそれがあるというケースも少なくありません。

 このようなケースに対応するため、民事訴訟法では、一定の要件を満たす場合、原告の氏名や住所を秘匿して民事訴訟を行うことができる制度が設けられています。それが、民事訴訟法133条に規定されている「秘匿制度」になります。

 この「秘匿制度」ですが、裁判手続における当事者のプライバシー保護の観点から、2023年2月から新たに施行された制度になります。この制度が設けられたことにより、以前よりも、当事者のプライバシーが保護され、申立人である原告が安全かつ安心して訴訟活動を行うことが可能となりました。

民事訴訟法133条(申立人の住所、氏名等の秘匿)1項
申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。申立て等をする者又はその法定代理人の氏名その他当該者を特定するに足りる事項(次項において「氏名等」という。)についても、同様とする。

秘匿の対象

 「秘匿制度」における秘匿対象は「住所」と「氏名」になります。これらについて秘匿が認められる場合、本名や住所の代わりに、「代替住所A」「代替氏名A」といった名称を使用することが認められます。

秘匿が認められるための要件

 秘匿制度によって住所や氏名の秘匿が認められるためには、住所や名前が相手方当事者に知られることによって「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」ことが、要件となります(民事訴訟法133条1項)。

 この要件については、個々のケース毎に判断されますが、インターネット上の投稿に関する法的トラブルであれば、少なくとも住所については、認められる可能性が十分にあります。

 また、具体的なケース(例えば、多数の加害者から誹謗中傷を受けている場合等)によっては、さらなる攻撃や中傷を防ぐために、住所と名前の両方を秘匿する必要があると認められることもあります。

 実際に、当事務所が担当したケースでも、インターネット上の誹謗中傷トラブルにおいて、住所と名前の両方の秘匿が認められたケースがあります。

秘匿制度における手続(秘匿事項申出書面)

 秘匿制度の利用を申し立てる際には、「秘匿事項申出書面」というものを裁判所に提出します。この「秘匿事項申出書面」は、秘匿を希望する住所や名前を記載する書面で、この書面を裁判所に提出して、秘匿の申立てを行います。

 裁判所の判断で秘匿が認められた場合、「秘匿事項申出書面」について、秘匿を申し出た本人以外による閲覧が制限されます。つまり、相手方当事者であっても、「秘匿事項申出書面」を閲覧できないため、秘匿を申し出た者の住所や名前について確認することができないことになります。

 このように、一番個人情報を知られたくない相手方当事者に対して秘密を守ることができるのが、秘匿制度の大きなメリットになります。

*秘匿制度が設けられる以前から、民事訴訟法92条に基づく閲覧制限という、個人情報を保護する制度はありました。ただ、この制度では、一番秘密を知られたくない相手方当事者に対しては閲覧制限が及ばず、秘密を守れないという難点がありました。
その意味でも、相手方当事者に対して秘密を守ることができる秘匿制度(民事訴訟法133条)の意義はとても大きいと評価できます。

具体的な手続の流れ

 秘匿制度を利用して民事訴訟を提起する場合、一般的に、訴状の提出と同時に秘匿の申立てを行うことになります。

 秘匿の申立てを行うにあたっては、裁判所に対し、秘匿を希望する住所や名前を記載した書面(秘匿事項申出書面)を提出する必要があります(民事訴訟法133条2項)。

 秘匿の申立てを行った場合、秘匿を認めるかについて裁判所が審査し、秘匿を認めるか否かについて決定を行います。

 裁判所の審査においては、住所や名前が相手方当事者に知られることによって「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」かどうかという要件について審査されますが、場合によっては、秘匿の必要性を基礎づけるための資料(本人の陳述書等)が必要となります。

民事訴訟法133条2項
前項の申立てをするときは、同項の申立て等をする者又はその法定代理人(以下この章において「秘匿対象者」という。)の住所等又は氏名等(次条第二項において「秘匿事項」という。)その他最高裁判所規則で定める事項を書面により届け出なければならない。

ポイント

  1. 2023年から新たに「秘匿制度」(民事訴訟法133条)が施行されており、自分の住所や名前を公開せずに裁判手続を行うことが可能になっています。
  2. 住所や名前の秘匿が認められるためには一定の要件を満たす必要がありますが、インターネット上の法的トラブルについても、秘匿制度の利用が可能となる場合があります。
  3. 秘匿制度においては、第三者のみならず、相手方当事者に対しても自分の住所や名前を秘匿することができます。

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鄭 寿紀

このコラムの執筆者

弁護士鄭 チョン寿紀スギSugi Jeong

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