法律コラム

Q&A<独占禁止法・下請法>「金型を無償で保管」は下請法違反?知っておきたいリスクと注意点

よくある相談

  1. 金型を無償で保管してもらっていると、下請法違反になりますか?
  2. 昔から商慣習上、金型や検具を無償で下請業者にも納得してもらい、保管してもらっています。
  3. 下請法違反とならない金型保管のルールを契約書で決めておきたい。

下請法とは?

 下請法とは、「下請代金支払遅延等防止法」の略称で、下請取引の公正化や下請事業者 の利益保護を目的としており、中小企業政策の重要な柱となっている法律です。

 下請法では、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるため、①親事業者の義務や②親事業者の禁止事項を定めています。

親事業者の禁止事項

 親事業者の禁止事項は、以下のとおりで、下請法に規定されています。各禁止事項の詳細は、公正取引委員会のウェブサイトから確認できます。

  • 受領拒否
  • 下請代金の支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用強制
  • 報復措置
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

金型の無償保管と最近の勧告事例

 「金型の製造を委託した後、親事業者が所有する当該金型を下請事業者に預けて、部品等の製造を委託している場合に、部品等の製造を大量に発注する時期を終えた後、親事業者が下請事業者に対し部品の発注を長期間行わない事態となることがある。このような場合に、親事業者が自己のために、その金型を下請事業者に無償で保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある」と指摘されていました(下請取引適正化推進講習会テキスト等)。

 実際、2023年以降、金型、治具及び検具(以下「金型等」といいます。)を無償で保管させているケースについて、公正取引委員会から、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法4条2項3号)を理由に下請法違反として勧告されているケースが増えています。

 令和7(2025)年以降だけでも、以下のとおり、多数の会社に対して、公正取引委員会から勧告が行われています。

(令和7年1月23日)東京ラヂエーター製造株式会社に対する勧告について

「東京ラヂエーター製造は、下請事業者に対して自社が所有する金型(以下「金型」という。)を貸与していたところ、遅くとも令和4年12月1日以降、当該金型を用いて製造する本件製品及びその部品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計2,389型の金型を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者30名)。」

(令和7年2月18日) 中央発條株式会社に対する勧告について

「中央発條は、下請事業者に対して自社が所有する金型を貸与していたところ、遅くとも令和5年4月1日から令和6年10月25日まで、当該金型を用いて製造する自動車用ばね等の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計608型の金型を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者24名)。」

(令和7年2月18日) 愛知機械工業株式会社に対する勧告について

「愛知機械工業は、下請事業者に対して自社が所有する金型、治具及び機械設備(以下「金型等」という。)を貸与していたところ、遅くとも令和5年8月1日から令和6年12月30日まで、当該金型等を用いて製造する自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計415個の金型等を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者5名)。」

(令和7年2月20日)株式会社荏原製作所に対する勧告について

「荏原製作所は、下請事業者に対して自社が所有する木型、金型、治具、工具等(以下「木型等」という。)を貸与していたところ、令和5年2月1日以降、当該木型等を用いて製造する製品及び製品を構成する部品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計8,900型の木型等を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者176名)。」

(令和7年3月7日)株式会社フタバ九州に対する勧告について

「フタバ九州は、下請事業者に対して自社が所有する又はフタバ九州の親会社であるフタバ産業株式会社から貸与を受けた金型、治具及び検具(以下「金型等」という。)を貸与していたところ、遅くとも令和5年4月1日から令和6年9月末日まで、当該金型等を用いて製造する本件製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計3,733個の金型等を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者16名)。」

不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法4条2項3号)とは?

 親事業者が下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、下請事業者の利益を不当に害する場合、「不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法4条2項3号)」に該当し、下請法違反となります。

 これは、下請事業者の利益が不当に害されることを防止するための規定ですが、協賛金の提供要請や従業員の派遣要請等が本規定と抵触する可能性があります。

 もちろん、下請事業者に対して、経済上の利益の提供要請が下請事業者の直接の利益となり、下請事業者の自由意思に基づく場合(製造委託等の物品等の販売促進につながる等)、下請法違反には該当しません。

 ただ、①親事業者による要請が親事業者の都合のみで下請事業者の直接の利益とならない場合や②下請事業者に対して不利益な取扱いを示唆して、事実上強制する場合は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法4条2項3号)に違反します。

金型の無償保管が下請法上、問題となるケース

 親事業者が下請事業者に対して金型を無償で保管することを要請する場合、下請法違反と判断されるおそれがあります。

 特に、以下のような場合は、公正取引委員会の勧告事例でも、下請法違反と指摘されているため、注意する必要があります。

  1. 金型を用いた製品を長期間発注しないにもかかわらず、無償保管させている場合
  2. 下請事業者から長期間発注がないこと等を理由に廃棄の希望を伝えられていたにもかかわらず、無償で保管させたり、棚卸作業をさせている場合
  3. 金型を用いて製造する製品を大量に発注する時期を終えた後、無償で長期間保管させている場合

金型の無償保管における下請法違反の注意点

① 下請事業者が同意しているだけでは、問題となる可能性があります。

 下請法違反では、仮に下請事業者による同意書面や合意書面があっても、事後的に、「下請事業者の利益を不当に害する」と判断され、下請法違反となる可能性があります。下請事業者との間で、金型の無償保管について、契約書面や同意書面があったとしても、下請法違反のリスクがあることについては注意が必要です。

② 下請事業者に単に利益があるだけでは、問題となる可能性があります。

 下請事業者の直接の利益となる場合、経済上の利益の提供要請が下請法違反とならないと解釈することも可能ですが、ここでいう「直接の利益」とは、「経済上の利益を提供することにより実際に生じる利益が不利益を上回るもの で、将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない」とされています(下請取引適正化推進講習会テキスト等)。

 安易に、下請事業者の利益にもなるから許されると考えないように注意する必要があります。

③ 金型の所有権の帰属が下請事業者(受注者側)と決めていても、問題となる可能性があります。

 金型の無償保管では、原則として、親事業者(発注者側)に金型等の所有権がある場合に下請法違反が問題となりますが、仮に、下請事業者(受注者側)に金型等の所有権がある場合でも、下請法で問題となるリスクはあります。

 令和6(2024)年12月に公表された企業取引研究会「企業取引研究会 報告書」でも、「所有権の所在にかかわらず、実態を踏まえて取引の適正化を図ることが重要」で、「金型の所有権の所在にかかわらず型の無償保管要請が下請法上の問題となり得る旨整理」するべきであると指摘されています。

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細井 大輔

このコラムの執筆者

代表弁護士細井 大輔Daisuke Hosoi

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